mother lakeのほとりにて

短歌のこと、身のまわりのことを

歌集「春の顕微鏡」より

永田紅さんの歌集「春の顕微鏡」より、好きな歌の中から10首を。

 

会うことも会わざることも偶然の飛沫のひとつ蜘蛛の巣ひかる

戻りたきこの世とぞ身を震わせる墓石もあらむ桜が咲けば

濾過してもあなたは残る 歳月に溶け込みすぎて分離できない

学振(がくしん)が苦心、科研費書けん日、と言葉に遊ぶを息抜きとして

どんな人と聞かれて春になりゆくを 春は顕微鏡が明るい

みんないてよかったという葉洩れ日の声にはならぬ声がするなり

嘘とわかるほどの時間のあらざらむこと思われてそを悲しみぬ

いそいそと猫のケンカに顔を出す手に竹箒など持てる可笑しさ

日中は無人となれる家なればしゃあないなあと家が留守居

猫ドアは内外(うちそと)に揺れ蝶番たのしかろうまた猫を通して