2016年に長谷部和子さんより頂いた歌集「月下に透ける」より10首掲載させて頂きます。
地下通路歩く速度は前を行く巨体の男に合はすほかなし
手の皮膚か紙石鹸かわからぬまで泡立ててゐた友と競ひて
西日中影ふみ遊びの子らの影長く伸びをり防火水槽まで
菜畑(なばた)の名宅地となるも残りたりこの辻でよく友を待ちゐき
友からの絵葉書を見て知つてゐた要塞ヴァレッタの石積みさがす
何回もレースのハンカチ折り直す話が軌道に乗るまでの間を
いいことが起こりさうだね母とならび藍に移ろふ空を眺める
だらだらと過ごせるはずの日のだらだらうまくなじまず眠くもならぬ
お年越しと姑(はは)の言ふ語ははえばえし 卓に大皿小皿並べて
みつばの香すれば摘みし日を思ひ出づ母なき生家日だまりの庭