「左肩がしづかに」
祐德美惠子さんより
歌集「左肩がしづかに」を送っていただきました。特に印象に残った歌10首を
掲載させていただきます。力のある歌ばかりで、10首に絞るのがとても大変でした。
呆気なくひとはいのちを失へり風に隠るる蜻蛉のごと
(九州北部豪雨)
あるだけの米しみしみと磨ぎてゐる山頭火をらむ月あかき夜は
北斎の「男浪」「女浪」はさびしい絵蒼い怒濤が永遠に鎮まらず
傷心の声といふものあるならばエディット・ピアフその鼻濁音
大寒の卵の黄身は盛り上がりうつらうつらといのちがねむる
姫島に白塗り小ぎつね舞ふ宵は記憶の壺がぐらり傾く
この世には繋ぎとめ得ぬものばかり金木犀は花降り零す
つづまりは女は男の声に酔ふ焼酎あたりかあの人の声
この世とはまぶしい夢か雪の日の雛の覆ひを解いてをれば
前の世もここに出逢ひをせしやうな夕映えながき山国の橋