mother lakeのほとりにて

短歌のこと、身のまわりのことを

歌集「風のおとうと」より

松村正直氏の歌集「風のおとうと」より印象に残った作品の中から10首。

 

駅員に起こされしひと秋空の雲のようなる顔をしており

もっとも愛した者がもっとも裏切るとおもう食事を終える間際に

砲弾のごとく両手に運ばれてならべられたり春のたけのこ

心よりと書きたるのちに気づきたり心よりではあらざることに

花びらがひらいて深く反ることの、反りてしずかに落ちゆくことの

この世では出会うことなき大根と昆布をひとつ鍋に沈めつ

ランドセルにすすきを差してゆうぐれのいずこより子は帰りきたるか

むき合ってふたりで肉を食べているあなたもわたしも肉であること

巻き網に掬い取られし小魚のきらきら跳ねて新学期来る

喪主である母を支えて立つ兄を見ており風のおとうととして