mother lakeのほとりにて

短歌のこと、身のまわりのことを

花山多佳子さんの歌集「晴れ・風あり」より印象に残った歌の中から10首。

 

猫がのどを鳴らすやうなる声に鳴きし今朝の鴉のこころを思ふ

枝豆を茹でたる匂ひがくらやみに悪意のごとく残りてゐたり

夜の雨はまなこを浸し鼻を浸し溺れさうなり自転車を漕ぐ

山上で銭を数ふる山賊をうつとりとして思ふ茂吉か

あたらしき雪平鍋に滾りつつ湯は芽キャベツのさみどりを揉む

爪楊枝のはじめの一本抜かんとし集団的な抵抗に会ふ

ゴミ出しにゆく背にどすんとかたまりの陽が落ちてきて今日は夏至なり

柏市の線量高し 三月十四日「晴れ・風あり」と手帳に記しあり

幼くてわれは掴みき父が畳に引き摺る兵児帯の先を

逝かんとする人の言葉はすでにして遺さるる言葉 生者のための